 近年、マスターの息子とやらが店番に就いている「安眠」の看板メニューは、かつてのパンプキン・パイからローズ・パイに移り変わっているのですが、バラの香りの漂うパイとあのガラスに三度恋しい人の名前を書けば願いが叶うと云われたシナモンティー(のシナモンの枝)は、香り同士のマッチングってどうなんだろうと余計なことを考えていてはたと気がつく今頃です。「パンプキン・パイ」に使われいてたであろう具材ははたして「パンプキン」と呼んでいいのか?
近年、マスターの息子とやらが店番に就いている「安眠」の看板メニューは、かつてのパンプキン・パイからローズ・パイに移り変わっているのですが、バラの香りの漂うパイとあのガラスに三度恋しい人の名前を書けば願いが叶うと云われたシナモンティー(のシナモンの枝)は、香り同士のマッチングってどうなんだろうと余計なことを考えていてはたと気がつく今頃です。「パンプキン・パイ」に使われいてたであろう具材ははたして「パンプキン」と呼んでいいのか?
お人好しのマスター当時36歳はコーヒーベーカリーを経営していたので、バリスタであると同時にパン屋の肩書も持ち合わせ、確かにうまいと評価されていたコーヒーと一緒に、お客の娘たちには「かぼちゃパイ」も美味しいと親しまれていたのです。
ここがややこしくも巧みなかわし方なのですが、この恋物語の表題は「パンプキン・パイとシナモンティー」。広義においてはパンプキンだってかぼちゃには変わりないんだけれど、今やパンプキンという種は観賞用に作られているということは周知の事実。ようやくハロウィンとすり合わせられるんですが、あの「ジャック・オー・ランタン」の筐体となる、オレンジ色のやつです。
一方、普段から温野菜とか天ぷらなどで我々がよく食っているウリ科かぼちゃ属は、狭義にはパンプキンではなく「スクワッシュ」と種別されているのです。大雑把に示すと、かぼちゃは「日本かぼちゃ」「西洋かぼちゃ」「ペポかぼちゃ」に大別されていて、日本かぼちゃは味が薄めという特徴があり、料理の材料に使われているのは糖質の高い西洋かぼちゃだそうです。「安眠」のパイが「とっても甘い」のか「甘さが控えめ」で食べやすいのかは不明ながら、このどちらかが材料となっている可能性は非常に高い。
それじゃあパンプキンってのはなんなんだということになるわけですが、かぼちゃがウリ科かぼちゃ属の総称で、パンプキンはその科属の中の「ペポかぼちゃ」品種の一部に絞られていくのです。観賞用と認識されるペポカボチャは食えるのか? もちろんこの品種にはズッキーニやソウメンカボチャなんて野菜も含まれているのでまったく食えないことはありませんが、お人好しのマスター当時36歳が、わざわざズッキーニをパンプキンだと主張してパイにしたとも思えない。
聞くところによると、ペポカボチャそのものの利用は、実ではなく種を調理するのが一般的だということで、パンプキンは観賞用でしかないといった見方も厳密には偏っていたと考えるのが良さそうです。それでもパンプキンの代表格ともいうべきアトランティック・ジャイアントなどは主に家畜の餌ですから、食えるのかなあと疑ってかかりたくなるものです。
ここで、あのお人好しのマスター当時36歳の非凡な才能を垣間見ることになります。仮に、甘味のあるスクワッシュではなく本当にパンプキンを材料としていたなら、パンプキンとズッキーニの間柄から想像するに、それは粘り気も甘味もなく比較的水っぽいものと思われ、これを素材に仕上げていく過程である程度の加糖や風味付けが必要でしょう。マスターはパン職人でもあるはずなので、常連客の誰に明かすこともなく卓越した味付けを完成させ、果たして甘くて頬っぺたが落ちるのか控えめな甘さと低カロリーで娘たちの人気を集めたのかわかりませんが、名目通りのパンプキン・パイを完成させるに至ったのではないかと想像するのが楽しいのです。
もっとも、世間ではパンプキンとスクワッシュの厳密な区別よりも、外来語を複合化して一般化していったパンプキンもかぼちゃも一緒だい、という大味な認識で、かぼちゃパイが作られていたのかもしれません。かぼちゃパイ、という言葉もでてくるからややこしくも巧みなかわし方が成されているというのはそういうことです。
けれども、ジャック・オー・ランタンを作る過程であっさりと廃棄されてしまうパンプキンの実を不憫に思って、なんとかこれを料理に用いられないかなあと試行錯誤した(かもしれない)お人好しのマスター当時36歳の人柄をイメージしたいのが人情というものです。
近年、後に嫁さんをもらったマスターには、近所からはバカ息子と呼ばれる二代目が育っていて、おそらくあの頃授業を抜け出して追試を食らいながらもマスターの恋路に一肌脱いでいた高校生の少年もまた父親となって、そのうちの一人の娘に片思いをし続けていたとか。その娘から交際を三度も断られてなおあきらめられないバカ息子は、彼女からパンプキン・パイを越えた逸品を作れたなら・・・と告げられローズ・パイの誕生に至ったそうですが、なぜローズ・パイだったのかはハロウィンのお話から逸脱するので(いやすでに思いっきり逸脱してるって)また別の機会に考証ということに。












